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合成音声の音楽に、言の葉を捧ぐ:詩的なボカロ曲レビューサイト

2022-01-01から1年間の記事一覧

ikomai「えゔぁぐりん」

ローファイな音色のよき、陰翳のある歌ものポップスだ。人は誰もみなこの世界に共存しながら、各々の情景のうちに生きている。たとえば子を想う母と、明日を想う子のように。しかしそれはバラバラに存在するわけではなく、それぞれの情景が折り重なることで…

来世は鯨になりたい「ハイウェイヒュプノシスト」

エレクトロな音響の心地よい、ポストロックのポップチューンだろうか。人恋しさの加速する夜のハイウェイ。過去であると同時に、未来でもあるような空間を、夢想は走り抜けてゆく。あたかも時間が融けてしまったかのように。夢がかたちとなり、かたちが夢と…

schoolmizzy「CURE」

ローファイな雰囲気も心地よい、ダウナーな歌ものミックホップだろう。治癒すると同時に色あせていった、過去の自分とその記憶。しかしある触媒にふれると、時間は振りだしに戻ってしまう。ゆきつくところは分かっていても、逃れようもなく引き込まれてゆく………

NaR「White Light / Blue Light」

静謐な音響がノイズを引きたてるオルタナティブロックだ。それは洞穴の暗がりのうちに、今にもたち消えそうな灯を想わせる。しかし人生という照明は、いつでも消えそうでいて、容易に消えるものでもない。だからこそ苦しみはつづくが、同時に希望ものこる。…

環ネコ「Midnight Sheep Café」

こよなき香りのくゆる、お洒落な夜のポップスです。誰しも現実のなりわいから、せめて眠りのひと時は自由でいたいもの。しかしストレスの締めつけから抜けだすのは、願うほどにうまくゆかない。ただこの楽曲に身をまかせたなら、羊たちが導いてくれることで…

シロムーン「ベッドメリー」

爽やかにリズミカルなポップチューンだ。たとえば夢の世界へといざなう、艶やかな玩具のように。そして願いはどこまでも、子馬のように駆けてゆく。ふと目が醒めたとしても、夢はそのまま、まだ手の届くところにあるような。そんな夜のまどろみへと導いてく…

いよわ「頬が乾くまで」

ゆるふわとした雰囲気のうちに、棘のある優しさの感じられる、不協和音ポップチューンだ。とある都市の片隅に埋もれた、ある渇いた生きづらさを濡らしてゆくように。そしてその如雨露を手にしているのは、暗がりの夢想のうちにある、もう一人の自分なのだろ…

Sebon「*スノウフレイク*」

爽やかな淡いポップチューンだ。それは次元の壁に隔てられた、身近なアイドルのように、遠くて近い距離感を連想させる。思わせぶりな仕草に、何の意味もなかったとしても、それはある解釈を生みだしてしまう。そして応答と、またその応答と。連鎖反応で転が…

いよわ「熱異常」

切迫感のただよう不協和音ポップチューンである。未来の予感に脈打つ動脈と、早くもかすみつつある視界、そして無闇に加速しながら空転する思考回路。つまりは流血と惨事の数秒間の時間の速さを連想させる楽曲だ。そしてたたみかけられる歌唱とともに、その…

鈴木凹「言葉には戻れない」

雨だれの波紋を描く湖面のように、淡い音響の心地よい、歌ものエレクトロニカだ。感情のままに流露した言葉が、そのまま歌となる。それはある修練をへた感性にしかなせない業であろう。だとするとこの楽曲は、その到達した境地を、音楽的に表現したものかも…

馬車馬カエデ「Pentaprism」

爽やかに軽やかなポップチューンです。そして音楽のある生活の楽しさ、目に映るもの・肌に感ずるものを慈しむことの大切さ、そうしたことを無理なく伝えてくれる。ぐるぐるまきの憂鬱を、たどっていてはたどりつけない、すぐそこにある理想郷のような。つま…

よつゆまる「to coda」

渇いた音の轟く、歌ものポストロックである。あの星空のもと、あの波打ち際に、あの時の二人がいた。奇跡のように成就された世界の配列は、天体の運行とともに、残響の彼方へと消えてゆく。その記憶のまだ鮮明なうちに、あたかも映像のように投影された音楽…

千石ナタデコ子「森の女王とロストアロー」

ファンタジックな民族調の調子のある、跳ねるような歌ものポップスだ。この地球という舞台での、幾多の愛の奏でる命の循環を、ある物語のワンシーンのように描きだしてる。いつかは終わりがあればこそ、それを予感していればこそ、慈しみのような恋も生まれ…

SEE「アンバー」

爽やかな汗の香りのする、夏のポップチューンである。照りつける陽ざしの日々に塗りかさねられ、色香とともに記憶された情景と感情は、どこまでも鮮やかなまま色あせることがない。あのとき伝えたかった言葉のリフレインは、わずかばかりの切なさとなり、そ…

あしかかもしか。「training!」

きらめくような性急さを感じさせるエレポップだ。まだ見ぬ何者かへと生き急がされる一方で、どこまでもゆっくりした時間のまだるっこさと。その狭間でますます高まっていく焦燥感が、ここにはよく落とし込まれている。それは青春のリアルというよりも、回顧…

mayoi「マーメイド」

水槽入りのタグがよく似合う、たゆたうような歌ものポップスだ。ただここで題材とされているのは、ゆれうごく恋愛感情ではない。そもそも人はなにがしかの自画像を、心の鏡に投影して、そこに映しだされた振りつけによって日々を生きている。しかし時にそれ…

みそ「青の洞窟」

水槽入りのタグがよく似合う、透明感のあるエレクトロポップチューンだ。人は誰しも、その内面にひとつの世界をもっている。自分しか知らないその反響を、夢心地に反芻してゆくような音楽であろうか。ここでは喪失の悲嘆もまた、どこまでも純化され美しい。…

ぐとら「Ace」

透明感のある音響に、まろやかな音色の響きわたる、ポップエレクトロニカだ。幾多の生命がまるで泡のように、生まれてはかつ消えてゆく、この大自然の神秘に溶けこまれてゆく感覚。この宇宙にあっては、僕もそうだし君もまた、いつ失われても不思議ではない…

ゲロゲー「Ⅰnswing」

ダウナーにして流麗なジャジーポップと言えようか。アコーディオンの音色も、艶やかな徒花を添えている。なんらの意味を見いだし得ぬ実存であっても、命ある限りは、人は踊りつづけなければならない。ただ死を弄ぶだけの絶望であっても、感じ方次第では生き…

こえだ、「アンサー」

ローファイな音色のよき、エレクトロニカな質感のポストパンクであろうか。往々にして人とは、自らの実存のうちに、意味を求めてしまう存在である。しかし生きるときは生きるし、死ぬときは死ぬ。それだけの話に、模範解答なんてありはしない。ただ自分なり…

鈴木凹「GOD ONLY KNOWS」

精神世界の投影されたアンビエント音楽といってよいだろうか。どれほど不条理にあふれていたとしても、そのままの世界をひたすらに肯定したい、祈りにも似た音楽である。世界のうちなる自分も、自分のうちなる世界も、ありのままにあるしかないのだから。そ…

古閒かもめ「夜のレジーナ」

青春の一コマを描いた、しっとりとした夜の歌もの。それでいてローファイな音色が、もう忘れたはずの傷心を思い出させてくれる。夜明けとともに離れ離れになって、それぞれに生きてゆかねばならない世のなかを、予感しながらうけとめている。やさしさのうち…

ML「アーイシャクルポテ」

ジャンルで言えば、和風カントリーになるのであろうか。心地よい光と風を浴びながら、ゆったりとした時間の流れている、そうした田園のイメージが想起される楽曲である。そして初音ミクの歌唱に重なりあう、初音ミクのコーラスが、豊かな感情がつぎつぎと涌…

鈴木凹「どくんどくん」

アンビエントな雰囲気を漂わせた、歌ものイノセンス。この空と大地のはざまに、ともにある多くの生命とともに、いま自分がたしかに存在している。この誰もが見過ごしながら生活している事実を、あらためて発見したときの驚きにも似た感覚に、この旋律と音響…

モノ「ウサギの機械」

夢想的な歌ものエレクトロニカである。乾いた印象の音響に、甘いキーボードのハーモニーが心地よい。それにしても夢は不思議だ。この現実の刹那に対して、時間も空間も思いのままに行き来する、オルタナティブな世界。それははるか遠い記憶のようでもあり、…

二錠「恋情はエス」

冷たい質感の心地よい、リズミカルなエレクトロニカである。二つの感情が、惹かれあいながらもゆき違い、それでいて千切れることなく絡まりあっている。かつは冷静に感情を分析しながらも、けしてコントロールされることはない行動。ここにはある段階におけ…

J・ミラ「人類はヒッポリトです。」

ローファイな音響の心地よい、歌ものエレクトロニカ。つぎはぎだらけの情報のコラージュで装われた、孤独なる演者の自意識は、誰にもそれと知られぬまま、やがてはこの演目も終わる。真実を知るイマジナリーフレンドは、自分のなかの自分であって。これは現…

油屋大繁盛「だいなし」

よれよれなローファイ加減のよき、現代の歌ものフォークと言ってよいだろうか。こうあるはずだった日常と、こうなるしかなかった現実との、埋めようのない齟齬を、何食わぬ顔で踏みこえながら、人は生きてゆかねばならない。しかしその齟齬は消えるわけもな…

よ。「オプティミズムなステップで」

リズミカルに抑揚のきいた、朗らかな歌もの。もう一人の自分に贈る、自分からのメッセージのように、ひとつの視線に優しさと厳しさが込められている。人は弱くもあり、それでいて強くもある存在だ。負の感情マゾヒズムから抜けだすための、心のキラキラをあ…

宮沢空「ピクニック・デイ」

エレクトロニカな音響の、爽やかなポップソングである。たとえ相手が人であっても、なかったとしても、ともに生きるパートナーのいる生活はよいものだ。たいていの人は、純粋に自己のためだけには、生きられない存在なのだから。ペイントで描いたイラストの…